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山梨県小菅村のドローン定期配送でわかったこと – 過疎地を救う次世代インフラ 「新スマート物流“SkyHub®″」全国展開を見据えて

2021年4月24日に山梨県小菅村でドローン定期配送を開始してから、約5か月が経ちました。今回は、このあいだに我々が取り組んだことや、達成できたこと、これからの展望について、お伝えしたいと思います。セイノーホールディングスさんとエアロネクストが構想する「過疎地を救う次世代インフラ 新スマート物流“SkyHub®︎″」とは何か、少しでも感じとっていただけたら嬉しいです。

小菅村での5ヶ月を振り返って

山梨県小菅村は、人口700名弱、高齢化率47%、いわゆる限界集落です。ほとんどの世帯が1〜2名で、少子高齢化にともない、村の財政力は低下し、村内からは商店が消え、住民の方々は食料品や日用品を買うために、片道約40分もかけて近隣の市街地にあるスーパーへ行かなければなりません。お医者さんに診てもらう、処方薬をもらうだけでも、ほとんど1日しごとです。

日本全国には、このような過疎地域が、小菅村を含めて820あるといわれています。我々は、「過疎地域の課題解決」を目的として、物流大手のセイノーホールディングスさんと連携し、小菅村の皆さんの協力を得ながら「 “新スマート物流SkyHub®︎」を立ち上げています。

というのも、物流業界にとっても、過疎地域への配送は厳しい状況です。物流業界には、営業用トラックの積載効率40%、つまりトラックドライバーが足りないのに、少量の荷物と空気を載せて走りまわり、大量のCO2を排出しているという課題があります。EC化率が向上し、個宅配送が増加の一途を辿るいま、赤字路線である過疎地域への物流効率化は、物流各社に共通する大きな課題になっているのです。

過疎地域が抱える課題

そんな過疎地域が抱える課題を解決に導くのが、「新スマート物流SkyHub®︎」です。何かというと、小菅村への荷物を物流各社共同でまとめて運び、村内に新しく設置した「ドローンデポ ®︎」に集約してから、村内にある8つの集落へ、陸路、ドローン配送、貨客混載などさまざまな方法を組み合わせてお届けすることで、「物流の効率化」と「地域住民の生活の質」、双方の向上を図るという新たな物流の仕組みです。

ドローンは、ドローンデポ®︎に集まった荷物を各集落や個宅などへ運ぶ、「ラストワンマイル配送」を担う1つの手段として機能していくことになります。同時に、買い物代行サービスを導入し、高齢者をはじめとする地域住民の方々の買い物支援や見守り機能を果たすというわけです。

新スマート物流「SkyHub®︎」とは

もちろん、ドローンがすべての荷物を運べるわけではありません。しかし、「ドローン配送ありきでSkyHub®︎という新たなインフラを整備する」ことが重要なポイントだと思っています。

ドローンは、物流の無人化や省力化に役立ちます。道路や渋滞など陸上の状況にとらわれず、直線の最短距離で配送できます。おまけに、“空の道”という新たなインフラは、陸上や水上に比べると圧倒的に低コストで速く開設することができ、(クリーンな電力をいかに確保するかという課題は残るものの)ドローンの動力源は電気であるため、脱炭素社会の実現にも役立ちます。

この5か月間、新スマート物流SkyHub®︎を小菅村に実装するという、壮大なテストをやってまいりましたが、「ドローンという新たな配送手段に適した形へ」という道しるべがあるからこそ、既存のシステムを見直して、人々の暮らしをより豊かにアップデートするきっかけをつかめるのだ、という手ごたえを感じています。

9月30日までの実績を振り返ると、買い物代行サービスは349回、ドローン配送は182回に達しました。ちなみにドローン配送はすでに“村の日常風景”になっており、ドローンが飛んでいても、いぶかしげに空を見上げる方はいらっしゃいません。(我々の方が、よっぽど空を仰いでいます…。)

小菅村でドローンが飛行する様子

そして、これまでテストにご協力いただいている村民の皆さんへの感謝の気持ちをこめて、無償で配送させていただいていましたが、10 月より有償化サービスに切り替えて新たなステージを歩み始めます。

有償化のご案内にあがったとき、「ちゃんと料金設定して、続けて欲しいと思っていた」「お金をお支払いした方が、遠慮せずに気持ちよく頼める」と歓迎いただけたことは、SkyHub®︎が過疎地域の課題を解決するインフラとして根付きつつある証として、スタッフ一同、嬉しさと安堵を感じています。

以前は商店だった建物が、ドローンデポ®︎として復活
ドローンデポに掲げた伝言板(9月29日撮影)

ドローン配送は口コミで広がり、ルートは5つに拡大

ドローン配送の歩みについて、もう少し詳しくご紹介しましょう。

SkyHubドローン配送をはじめたときは、橋立地区に設置したドローンデポから、約600m離れた川池地区への1ルートを開設して、1日2便、週に3日からスタートしました。とにかく、定期的に数多く飛ばすことを重要視して、ご協力いただける村民の方に「モデル家族」として定期的に注文いただくといった工夫もしました。

そして、約2ヶ月後の7月上旬には、1日10便のドローン配送を安定運航できるまでになり、飛行ルート数も田元、中組地区へと拡大していきました。9月30日現在、村内にはドローン定期配送ルートは5つ開設されています。

ちなみに、我々がいつもお世話になっている旅館の屋上にも、ご主人からの希望を受けてルートを開設しました。ご主人自身だけでなく、旅館のスタッフさんや宿泊者のためのオーダーで何度もリピートしてご利用いただいています。個人宅へのドローン定期配送ルート開設は、日本ではまだない事例ではないでしょうか。

DDは「ドローンデポ®︎」、DSは「ドローンスタンド®︎

お客様が欲しい商品をLINEや電話で注文すると、ドローンデポ®︎に常駐するスタッフが注文を受けて、商品を箱詰めします。準備ができたら、フライトサポーターが箱をドローンに設置、飛行ルートや周辺の安全確認を行ったうえでドローンを離陸させ、集落に設置したドローンスタンド®︎へとドローンが飛んでお届けします。もちろん、人間が操縦するのではなく、自動飛行です。

機体のカバーを開けて箱を入れる
ドローンが離陸するところ。規制上、離発着地点には有事の際に機体を操縦するためのフライトサポーターを配備

ドローンは着陸すると自動的に荷物を切り離して再離陸、ドローンデポ®︎へと自動飛行で戻ります。荷物は、お客様にドローンスタンド®︎まで取りに来ていただきます。ドローンは、陸路のように山を超えて迂回しなくても、直線距離で移動できるので、商品をすぐにお届けできます。やはり、ドローンの本領は「オンデマンド配送」なのだと改めて感じます。

4月には、家の近くに着陸したドローンを珍しそうに見ていたお子さんも・・・
9月には、「お菓子はドローンがブーンと飛んで運んでくれるもの」が当たり前に(!?)

実は、ドローン配送はオフィシャルに周知することなく、自然と多くの方々がご利用くださるようになりました。当初は、小菅村の村民で現エアロネクストの小菅村プロジェクトリーダーをつとめる森さんが、友人に「モデル家族」としての協力をお声がけして、スタートしました。

モデル家族の皆さんと、一番右が森さん。8年前、地域おこし協力隊として小菅村に住み始め、現在は小菅村長作集落に住み自らの事業や、都内の大学講師もつとめる

しかし、モデル家族のそのまた友人さんや、道端でドローンが飛んでいるのを見たという村民の方々が、「自分たちも子供にドローンを見せたい」「ドローン配送を体験してみたい」という好奇心から、次々と利用したいと声をかけてくださったのです。

ドローン配送は毎週、公式LINEから、その週の配送可能日程を送って、LINEで注文いただいているので、「LINEをやっていない」というご高齢の方のところには、お家まで説明に行ったこともありました。道端で話しかけられたときにも、丁寧に説明するなどして、口コミで広がっていったのです。

夏場、特に人気だった商品は、アイスクリームのファミリーセット。小菅村には、アイスクリームや生クリームがのったお菓子を売っているお店がありません。車で片道40分かけて買い出しに行かないと食べられない(しかも溶けたり、崩れたりする…)ので、「LINEでメッセするだけでアイスが空を飛んでくる」というのは、大好評でした。

そこで、人気のある商品をセットにした、「SkyHub®︎ドローンパッケージ」を用意しました。予めドローンデポにストックしておけば、注文があったときすぐにドローンで届けられます。

SkyHub®ドローンパッケージ(例)

これは、我々が構想する「ドローンデポ®︎のダークストア化」の第一歩でもあります。将来的にはドローンデポ®︎に、調味料やお薬など、村民の方が日常的に買い求める商品の品揃えを充実させて、お客様のニーズに合わせてドローン、陸路など、最適な手段で配送していくことを構想しています。このあたりの話は、次のブログでお話させていただきますね。

「孫に会えているみたいで嬉しい」買い物代行サービス

買い物代行サービスについても、詳細を振り返っておきたいと思います。

SkyHub®︎買い物代行サービスは、セイノーホールディングス傘下のココネットの枠組みではじめました。ココネットは、お客様と同じ地域に住む「ハーティスト」と呼ばれるスタッフが、地域内の店舗で買い物を代行したり、地域内の店舗で購入した品物を自宅までお届けする、というサービスです。ただし、小菅村には村内に1つしか商店がないため、今は近隣の都留市にあるスーパーオギノまで仕入れに行っています。

オギノさんに協力いただき、SkyHub®︎買い物代行サービス用のカタログを用意して、村民の方々に配布しました。村民の方が電話、メール、LINEなどで、お昼の12時までに商品を注文すると、当日中にお届けされるというサービスです。配送時間は、15時〜17時、17時〜19時、指定なしを選べます。

電話で注文を受けるスタッフ

日祝は、ドローンデポがお休みなので、平日と土曜日に注文を受けていますが、そのなかで1つ、印象的だったことがあります。それは、カタログがあれば注文できるだろうと思っていたけど、村民の方から「オギノのチラシが欲しい」とご要望をいただいたこと。

カタログは、たしかに商品を網羅しています。だけど、小さな画像がずらりと並んでいる中から、欲しいものを探しあてるのは難しかったようです。また、高齢の方にとっては、商品名の文字も小さかったそうです。チラシなら、旬な商品やお値打ちなものが一目瞭然で、スーパーに行って選んでいるようなワクワク感も味わえます。 そこで、オギノさんからチラシのPDFデータを提供いただき、週に2回、LINEで配信しています。特に「週末チラシ」では、敬老の日のお寿司セットや、北海道フェアは人気。お店でもわかりやすいところに置いてありますね。

ドローンデポ®︎にかけたカレンダー。緑のシールが買い物代行、ピンクがドローン配送

配送スタッフは、セイノーホールディングスさんのラストワンマイル推進室の方や、エアロネクストのスタッフのほかにも、近隣大学に通う学生さんたちがアルバイトで働いています。軽トラックで商品をお届けに行くと、「孫に会えているみたいで嬉しい」と喜ばれたり、我々も「今週は注文がないけど、何かあったのかな」と心配になったりと、村民の方との距離が縮まってくると温かい気持ちになれます。

また、高齢の方は定期的に、人によっては曜日固定で日常使いされる、若い方は金曜日の買い足し利用が多いなど、ご利用の傾向が見えてくるようになりました。買い物代行サービスは、1人や2人暮らしの高齢者世帯の見守りとしても、機能すると実感しています。

自社開発の物流専用試作機がフライトデビュー

ドローンの機体開発も、着々と進んでいます。我々は、もともとドローンの機体構造設計技術を研究開発しているスタートアップです。

4月のドローン定期配送開始時には、提携先であるACSL社製PF-2を使用していましたが、6月に自社開発の物流専用試作機が完成して、6月10日には神奈川県横須賀市立市民病院さん、出前館さん、吉野家さん、ACCESSさんと共同で、医療従事者の方から注文された牛丼をオンデマンドドローン配送するという実証実験を行いました。

横須賀市立市民病院での実証

我々の物流専用機の最大の特徴は、機体の真ん中に荷物を搭載して、行きと帰りで重心が変わってしまわないように設計していることと、かつ飛行中もエアロネクスト独自の機体構造設計技術4DGRAVITY®︎を搭載することで、モーターの回転数の均一化を図れることです。

これにより機体の基本性能が向上し、従来機よりペイロード(搭載できる重量)が2倍以上に、箱の大きさも、宅配便で一般的に使われる80サイズに変更して、きっちり格納できるようになりました。

横須賀での実証実験で牛丼が入った箱を機体に搭載するところ

この機体をすぐに小菅村に持ち帰り、テスト飛行を継続しながら、もっと手軽に荷物を搭載できるようにと改良したのが、こちらの物流専用試作機です。これなら、片手でもカバーを開閉できます。10月より、小菅村内における目視外飛行(レベル3)でも、使用する予定です。

最新の物流専用試作機

この間に、思い出深い出来事もありました。7月21日、小菅村でのドローン配送100回を記念して、「空飛ぶ熱々牛丼」をお届けしたのです。横須賀での実証実験がご縁で意気投合した吉野家さんが、小菅村の方々にも吉野家の味をお届けしたいと、特別にご協力くださいました。

ドローン配送100回達成記念“空飛ぶ牛丼″の様子

2021年10月から「新たなステージ」へ

今回は、小菅村での5ヶ月間の取り組みを振り返りましたが、2021年10月から、小菅村での取り組みは新たなステージに上がります。

まず、サービスの有償化です。買い物代行サービスは、配送料0円から1回300円になります。また、本来であれば地域内にあるお店で買い物をして届けるというサービスですが、小菅村の場合は隣市まで買い出しに行っているという事情もあるため、商品代金の10%を手数料としていただくことになります。

ドローン配送も、これまでは商品代金も配送料もいただいていませんでしたが、配送料は1回300円になります。商品代金は、ダークストア化したドローンデポに在庫を用意し、この段階でドローンデポ価格をつけて販売します。 また、LINE上で、商品の注文と配送日時の枠指定を完結できるよう、SkyHub®︎アプリをリリース予定です。小菅村への共同配送や、貨客混載の取り組みも一気に加速させていきます。

ドローンデポ®︎の向かいには、エアロネクストの子会社「NEXT DELIVERY」の本社がある

我々はこれからも、この小菅村で「新スマート物流SkyHub®︎」の社会実装を進めてまいります。小菅村は、東京から2時間という“好立地な過疎地”であるため、ドローン配送のショールームとしても多くの自治体さんから注目を集めています。ぜひ、小菅村にお越しいただき、SkyHub ® がある地域生活を体感していただければと思います。

ドローンは音がうるさいのではないか、墜落する危険があるのではないか、住民の方々からさまざまな声があるかと思います。我々は、見学を目的としたテスト飛行を行って実際に音を聞いていただく、万が一の墜落に備えた対策をしっかりとご説明するなど、地域の社会受容性を高めるための取り組みも丁寧に重ねてきました。

ルート開設のノウハウも溜まっています。たとえば、山の上空や斜面を飛行する際は、衝突しないようドローンの最大高度150mで飛行し、その後で配送時間の短縮や効率化のために最適な高度に調整していくことや、車に乗って複数名体制で飛行中のドローンを追いかけながら、LTEの受信環境など電波状況調査を行うなど、さまざまな場面での安全管理の方法をいまもアップデートし続けており、小菅村でのノウハウを他のエリアにもしっかり応用していきたいと考えています。

そして10月には、“小菅モデル”全国展開の第一歩として、北海道上士幌町で新たな実証実験をはじめる予定です。上士幌町は、人口約5000人、地域内に店舗も多く、牧場も多いため広々とした個人宅は離発着にも最適であるなど、小菅村とはまた異なる特徴を持つエリアです。「新スマート物流SkyHub®︎」がどのような形に変貌を遂げるのか、楽しみにしていてください。