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新スマート物流の原動力、ドローン配送「最強の運航チーム」
2022年度、新スマート物流「SkyHub®︎」の実装地域は、全国5か所に広がりました。また、ドローン配送の実証実験を行った地域は全国27か所にのぼるなか、SkyHub®︎ドローン運航チームは新たな挑戦を始めました。
「SkyHub®︎」と「ドローン配送」
新スマート物流「SkyHub®︎」は2021年4月、山梨県小菅村で始まりました。小菅村は人口約660人。少子高齢化が進み、ご高齢の1人暮らしが世帯の大半を占めます。村内には8つの集落がありますが、村内には手軽にお買い物できるコンビニやドラッグストアはなく、隣接する大月市からの物流トラックは、ほとんど空気を乗せて走っている状況です。
このような過疎エリアで、物流インフラを維持するためには、物流のあり方そのものを見直す必要があります。同時に、物流クライシスを目前に、ドローンを含めた最新技術の活用と、それによる物流業務の省人化・無人化は、待ったなしに迫られています。
新スマート物流「SkyHub®︎」は、ドローンやロボットによる無人配送や、物流会社横断での共同配送、路線バスや新幹線など既存モビリティとの貨客混載、ギグワーカーの活用など、新たな手法を各地域に最適な形で導入することで、地域経済を甦らせ、住民の方々の暮らしの豊さを守る、一助となることを目指しています。
ドローン配送は、こうした大きな取り組みの“中核”を担う存在です。
というのも、無人航空機いわゆるドローンという、これまでにない新たな配送手段を、物流システムに組み込む取り組みこそ、地域物流や地域経済を抜本的に立て直すための、具体的な契機になるからです。
また、空から荷物を届ける“ワクワク感”は、地域に新スマート物流「SkyHub®︎」が実装された新たな暮らしへの、期待を育んでくれます。これは、全国各地をまわってドローンで物をお届けし、住民の方々の笑顔を目の当たりにしてきたからこそ、確信できることです。
そんなドローン配送を担う運航チームは、常にプロフェッショナルであるべきであり、新スマート物流「SkyHub®︎」を推進する原動力になる、と我々は考えています。今回は、最強の運航チームの現在と未来についてご紹介します。
グラウンドリスクを「理解した上で飛ばしているか」
2023年2月、新スマート物流「SkyHub®︎」の全国展開を手がける株式会社NEXT DELIVERY(エアロネクスト子会社)の取締役・運航統括責任者に、青木孝人さんが就任しました。青木さんは、ドローン運航のプロフェッショナル。小菅村でドローン配送を手がけた当初から、苦楽をともにしてきた仲間の1人です。
2017年にドローンパイロットとして始業し、2018年には東海道新幹線の橋梁ドローン点検、2019年には「令和元年東日本台風(台風19号)」の岩手から福島の被災エリアの広域測量および点群データ作成、大手自動車メーカー(社名非公開)からの依頼で港にぎっしり停車した新車のドローン空撮による車両台数把握など、幅広い領域でドローン活用のパイオニアとして活動してきました。
「ドローンを始めた頃は、めちゃくちゃ失敗していました。空撮したデータを持ち帰って点群化しようとしたら、画像が荒すぎてできなくて、すぐに再許可を取って、車で3〜4時間かかる山奥まで撮り直しに行ったり…。だから、すごく練習したというか、150m未満の空域をいろんな場所と条件下で、さまざまな目的や用途で、いろんな機材を使って飛行して、ノウハウを蓄積してきました」(青木さん)。
青木さんは、2023年1月に日本初の一等無人航空機操縦士の4人のうち1人として資格を取得し、3月に日本郵便さんが実施した日本初のレベル4飛行にもアサインされましたが、物流に関してはこう語ります。「ドローン物流は、一般のフィールドで飛ばす重圧を感じたことがあるパイロットじゃないと、まず無理だと思います」(青木さん)。
NEXT DELIVERYの運航統括責任者として各地でドローン配送を推進し、パイロットの採用や育成にも携わりつつ、引き続き物流以外のさまざまな現場でも活躍中の青木さんが、「ルールを守ることは大前提」として、特に重要視しているのは“グラウンドリスク”です。
「例えば、ドローンの飛行空域は地上に近く、上昇気流、下降気流の影響を受けやすいので、地形を読まないといけません。雨についても実際の雲の動きを調べて予測したり、周囲に鉄塔などの危険な構造物がないかを確認したり。ドローンの安全運航で一番重要なのは、ドローンパイロットが状況を分かった上で、その状況下にはどういうリスクがあるのかを理解した上で、よい塩梅の空域を選んで飛行ルートを組み、飛行可否やトラブル時の判断をできることなのです」(青木さん)
デビューして8か月で「一等」取得
そんな青木さんの運航チームのドローンパイロット、竹川貴裕さんが2023年6月に、一等無人航空機操縦士に合格しました。実は、竹川さんがグラウンドパイロットにデビューしたのは、たったの8ヶ月前のこと。
いま「SkyHub®︎」は、実証から実装へと、展開を拡大していくフェーズに入りました。しかし、これまで現場の第一線を担っていただいたプロのドローンパイロットさんは数が少なく、専任の新たな人材を育てていく必要があります。
竹川さんは、その第一号。ドローンスクール卒業後すぐに、最初は補助者として、実証などで飛行ルートの下に立ち、機体や周辺を目視確認して、何か異常があればパイロットに状況を伝える役割を担いました。
次に、グラウンドパイロット。ドローンの離着陸地点にプロポを持って立ち、異常事態が生じたときに、操作介入する役割を担いました。「SkyHub®︎」実装エリアである福井県敦賀市での、デビュー当時を振り返ってこう語ります。
「離陸着陸時に人が立ち入らないよう、注意しなさいと言われてデビューした1週間後、GPSのズレで機体が電線の上に下降してくるトラブルが発生したのですが、たまたま同時に、外部の業者さんが着陸地点に入ってくるヒヤリハットも重なったのです。かなり焦ったのですが、リモートパイロットの判断を仰いで、冷静に対処できました」(竹川さん)
「SkyHub®︎」のドローン運航チームは、着陸地点と離陸地点のグラウンドパイロット1人ずつ、そして運航管理システムを使って飛行を統括するリモートパイロット1人という、「3人1チーム」で動いています。
竹川さんは、2023年1月〜3月の全27か所にわたる実証実験で全国を飛び回る最中、リモートパイロットとしても稼働を開始。GCS(Ground Control System)上で、ドローンの自動飛行ルートを設定する作業や、実際の飛行ではグラウンドパイロットと状況を確認しながら、ドローンを遠隔操作で飛行させる役割も担えるようになりました。
そしてもう1つ、ドローンパイロットとして重要な役割である「申請業務」にも、リモートパイロットを務める約2ヶ月前に着手。「SkyHub®︎」実装エリアである茨城県境町で、全9ルートの飛行申請業務をやり切りました。まだまだ法的にグレーな部分もあるなか、ルールに則って安全に運航するためには、航空局とのやりとりを正確に進める力も求められています。
このように、ドローンパイロットの仕事は、ただ飛ばすだけではありません。グラウンドパイロット、申請業務、リモートパイロット、いろんな役割があって、相互に勉強していくことが重要です。SkyHub®︎のドローン運航チームでは、これらの役割を順番に経験していくことで、ドローンパイロットの育成を進めています。
「申請業務を任されてから、ロケハンで現場を見る目が変わりました。例えば、飛行経路上の障害物の有無や、道路の交通量などを見て、安全に飛ばせるかどうか、申請が必要かどうかなどを瞬時に考えられるようになりました。また、物流専用機Air Truckの機体特性を考慮して、高度150m未満という制限のなかでも高度をできるだけ一定に保つルートを設計するなど、安全運航への意識がより高まったと思います」(竹川さん)
質の高い運航を追求し続ける仲間とともに
青木さんと竹川さんについて、破竹の勢いで成長中のパイロットもいます。元自転車選手の中川拳さんです。プロ選手を引退して、「いろんな仕事を経験してみよう」と求職中に、「SkyHub®︎」実装エリアである北海道の上士幌町で採用されました。
ドローンは見るのも初めて。でも、「ドローンで物を運べることに感銘を受けたのと、青木さんの人柄にも惹かれて、ここで働きたいと思った」と、すぐに我々のチームに加わってくれました。
やはり補助者からスタートし、DJI Phantom 4での操縦訓練を経て、約2ヶ月後には上士幌町でグラウンドパイロットとしてデビュー。2023年2月〜3月の実証実験では全国各地をまわり、2023年4月からは小菅村で毎日運航を担っています。
「上士幌町では極寒での注意ポイントや判断基準を学びましたが、境町は日常的に風が強く、人口も多い場所で、安全運航のために考慮するべきポイントが異なりました。毎日同じ場所で経験を積み重ねるなかで得るものもありますが、いろんな場所で、いろんな状況を目の当たりにすることで、安全運航のための引き出しを増やせると感じています。また、機体がどんどん改良されていくのは、国産ならでは。機体と一緒に自分自身も成長していける環境は、すごくありがたいです」(中川さん)
最近は中川さんも、申請業務やリモートパイロット業務をOJTで学び始めました。そして毎日、始業前にバッテリー3本分の、飛行訓練を欠かさない強者でもあります。
1人ひとりのパイロットが頼もしい存在ですが、そんな彼らが「切磋琢磨し合える」ことこそ、「最強の運航チーム」を実現できる理由です。
「小菅村では毎日運航しているので、毎日反省して翌日に活かす、というチーム単位でのサイクルができてきました。例えば、機体が結構揺れていたからルートの作り方を変えてみよう、などと話し合ったり、青木さんからもアドバイスをいただいて、全て飛行日誌に記録しています。安全で質の高い運航を追求し続けているので、ネタは尽きないです」(中川さん)
制度・機体・運航の「三方よし」を目指したい
これから、新スマート物流「SkyHub®︎」の全国展開は、さらに加速していきます。もちろん「SkyHub®︎」は、陸送、店舗運営、買い物代行もあって、ドローンだけではありませんが、冒頭にお伝えした通り、ドローンは「SkyHub®︎」の中核を担う存在であり、原動力です。将来的には、ドローンの運航を担える人材を地域で採用・育成するなどして、地域に雇用を生み出していくことも視野に入れています。
そこで、我々は、ある1つの取組を行い、成功を収めました。それは、ドローンデポ小菅の店長で、立ち上げ当初から陸送や店舗運営など、「ドローン配送以外」のすべてをリードしてきた成田さんが、遂にドローンパイロットとしてもデビューしたこと。
「デポスタッフからすると、商品の品質も大事なので、ドローンが飛ぶギリギリまで冷蔵庫に入れておきたいし、10分間隔で飛ばせたらと思っていました。でも、自分がグラウンドパイロットとしてドローンを飛ばす立場になったことで、機体を点検する時間を削っちゃいけない、ずっと屋外に立っているパイロットの体力も考慮するべき、などいろんなことが見えてきて、ちょうどいい折り合いがつけられるようになりました」(成田さん)
数年後にはこの観点が、非常に重要になるでしょう。地方での雇用創出を目指すとはいえ、地方での採用活動は容易ではありません。「ドローンパイロットも、陸送のサービスも、注文受付や在庫管理まで、一人で完結したほうが、それだけスタッフを配置しなくてすむので、一番理想ですね」(成田さん)。
一方で、いまはまだ、「プロフェッショナルなドローンパイロット」が必要なフェーズです。「三方よし」になっていないからです。
「三方」の1つめ、ドローン運航に関する「法律や制度」は、グレーなままであるために、運航者側で対応を求められる観点が多々残されています。
2つめの「機体」も、まだまだ改良の余地があります。人間が、現場の状況を理解し、機体の特性や限界値も十分理解したうえで、丁寧に取り回さなければなりません。
このため、制度と機体が完璧でないところを、3つめの「運航者」がリスクを背負って、マンパワーで補っているというのが実情なのです。
「三方よしになっていないから、ただ単にパイロットを育成して、ただアサインしていくだけでは、だめなんですよね。例えば、3人1組運航チーム内で、お互いの得意や相性まで加味して、組み合わせをしっかり考えて配置することが大切。こういう細かい話も、通算800回以上飛行してきて、ようやく見えてきたことです」(青木さん)
我々の使命は、「三方よし」になるまで、安全運航を人間の力でやり切って、パイオニアとしてドローン物流を広げていくことです。そのためには、話が戻ってしまいますが、未だ「三方よし」ではないことを含めて、“状況を理解した上で飛ばす”ことが、安全のスタートラインになります。
「だから、理解した上で運航しているのかを、パイロット1人ひとりに問いたいし、メーカーにも、国にも問いたいです。少なくともSkyHub®︎のドローン運航チームは、“状況を理解した上で飛ばす”という意識が根付いてきました。将来的にはリモートパイロットだけで安全運航できる世界も見据え、何千、何万、何十万回と実績を積み重ね、制度や機体を作ってくださる方々とも連携しながら、制度、機体、運航の「三方よし」を、目指していきたいと考えています」(青木さん)
新スマート物流「SkyHub®︎」の推進に向けて、我々と力を合わせて取り組んでくれる自治体さん、事業者さん、ドローンパイロットさんや志望者さんとの、新たな出会いを楽しみにしています。