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北海道上士幌町で「SkyHub®︎」スタート – まずはデリバリー市場の拡大を図る
2021年8月、エアロネクストは上士幌町、セイノーHD、電通と4者で、ドローンを含む次世代高度技術活用による「持続的な未来のまちづくり」に関する包括連携協定を締結しました。そして、同年10月より北海道上士幌町で、その具体的な取り組みをスタートしています。今回は、その狙いと概要、今後の展望についてお伝えします。
2022年、SkyHub®︎は「北海道モデル」確立を目指す
れまでお伝えしてきたとおり、2021年は山梨県小菅村というところで、新スマート物流「SkyHub®︎」の社会実装を進めてきました。SkyHub®︎とは、前回のブログで詳しくご説明しているのでここでは簡潔にまとめると、地域コミュニティ内にドローンデポ®︎を設置して、地域への物流と地域内での個別配送とのハブにすることで、物流全体の効率化を図るという新しい物流の仕組みです。
もともと小菅村では、村への各運送会社の物流を共同配送に切り替えることで効率化を図り、村内の配送手段としてドローンを活用することで省人化を図るという仕組みを想定していました。
ところが、これが社会実装する大きな意義だとも思うのですが、実際に村民の方へSkyHub®︎のサービスをご利用いただくと、「村内にお店がなく、隣町まで毎週行くのは大変。買い物代行サービスはすごく助かる」というリアルな声が聞こえてきたのです。SkyHub®︎には、セイノーHD傘下のココネットが提供する「お買い物代行サービス」が不可欠だと確信しました。
また、繰り返し購入する日用品や食材、病気や怪我などで急に必要になる商品、欲しい時にすぐに買えると生活の質が向上する嗜好品などは、「ドローンデポ®︎で在庫を持って、注文があればすぐドローンでお届けすることで、暮らしが豊かになる」ことも確認できました。すでに、小菅村のドローンデポ®︎は無人店舗「SkyHub®︎ストア」として、常に300以上の商品を在庫しています。
このように、小菅村の皆さんのご協力のおかげで、エアロネクストとセイノーHDは、共同で立ち上げた新スマート物流SkyHub®︎を、より多くの自治体に適用できる、本当に地域の暮らしの役に立つサービスへと磨きこむことができる、と手応えを感じられた頃に、出会ったのが上士幌町です。
上士幌町は、ICT活用の取り組みを20年以上続けてきた、全国でも先駆的な町です。ぜひ上士幌町でSkyHub®︎を導入いただき、北海道にある“似たような課題”を抱える自治体の皆さんにとって、モデルケースになるような取り組みを進めていきたいと考えたのです。
上士幌町とタッグを組む理由
上士幌町は、北海道十勝地方の北部にある、人口約5,000人の町です。十勝帯広空港からは車で約1時間20分。行政面積約700㎢という広大な土地を持ち、その約75%は森林、約14%は農地という、酪農をはじめ農業や林業がさかんな自治体です。
けれども聞くと、驚くべきことに、町の中心部から離れた農村地域や山間部であっても、光回線が町中に整備されているとのこと。そして、減少の一途を辿っていた人口は、2016年に増加に転じたというのです。
その背景には、6期目を迎えた竹中町長が20年以上推し進めてきた、ICT化を核とした「持続可能な未来のまちづくり」の取り組みがありました。町長と時を同じくして町役場で働き始めた、ICT推進室室長の梶さんは、同町のICT推進の取り組みを振り返って、このように話してくださいました。
「20年前、市町村合併が推奨されましたが、北海道では多くの自治体が、非常に広大な行政面積を抱え、隣町はすごく遠くて、市町村合併がなかなか進まなかったのです。上士幌町も、合併の話は出ていましたが、途中で破談になりました。当時は、市町村合併をしなければ地方交付税の配分で不利になるという報道もあって、大変な決断だったのですが、上士幌町は合併しないことに決めました。人口は減る一方なので、このままでは財源が先細りになります。そこで竹中町長が宣言したのが、都市との交流を増やす、そのためにはICTを活用するという方針でした」(梶さん)
こうして上士幌町では約20年前から、物産品を販売するECサイトや、クレジット決済などの“外貨を稼ぐ”ICT活用を先駆的に推進してきたのです。最近では、子育て支援策としての光回線整備、テレワーク施設の拡充、自動運転や高齢者向けオンデマンドバスサービスといったMaaS関連など、さまざまな取り組みを町主導で行っておられます。
特に、高齢者向けオンデマンドバスは、農村地域に住む高齢者のために、定期路線だったバスを予約制のオンデマンドに変えて、タクシーのように玄関前までお迎えに行くサービスを提供しています。そのために、高齢者の方々にも頑張ってもらったそうです。電話ではなくアプリでご予約いただくシステムを構築し、タブレットを貸与して、オンライン予約を実現したのです。アプリ開発では、あえて戻るボタンを置かないなど、極力シンプルなUIを追求したそうです。
我々は、SkyHub®︎を展開する2つめの候補地を探していたとき、「最新の技術を活用して、取り組みを進めている自治体と、ともにチャレンジしたい」と考えていました。上士幌町のオンデマンドバスのインフラ整備について聞いたときは、SkyHub®︎の各種サービスとも非常に相性がよいと感じました。竹中町長や梶さんをはじめ、町の方からもこのように言っていただいたことは、とても励みになっています。
「SkyHub®︎の構想を聞いたとき、共同配送や貨客混載で物流の効率化を図る、人や車とドローンの有用性を考慮してうまく用途を当てはめていくというコンセプトが、我々の町の考えと合っていると感じました。上士幌町にあるインフラを活用して一緒に進めていくことで、北海道の過疎地域における新しい物流モデルを具現化していきたいです。北海道には、広大な行政面積を抱えて、市街地以外にも人がポツポツと住んでいる、上士幌町と“似たような移動や物流の課題”を抱えている市町村がたくさんあります。上士幌町モデルで実証できたことを、道内で横展開していってもらえるといいなと思います」(梶さん)
まずは「デリバリー市場の拡大」を目指す
こうして、上士幌町へのSkyHub®︎社会実装、つまり商用化を前提とした、実証実験がはじまりました。そして、2021年10月〜11月には、大きくは2つの実証実験を行いました。いずれも、ドローン配送の新たなユースケース発掘とデリバリー市場の拡大を目指しています。
1つは、小菅モデルの延長線上の取り組みとしての、ドローンによる個人宅配送や、ドローン配送の観光商品化です。
小菅村では、ドローンデポ®︎から飛びたったドローンは、村内の各集落に設置したドローンスタンド®︎まで荷物を届けるという「置き配」スタイルですが、上士幌町の農村地域では個人宅に広い庭や農地があるため、個人宅配送が比較的容易です。実証実験では、オンデマンドバス利用のために町が貸与しているタブレットを使って、高齢者の方にも食品のウェブ注文とドローン配送をご利用いただきました。
また、ナイタイ高原牧場では、ナイタイテラス内にグランピング特設サイトをつくり、バーベキュー利用者がオーダーしたナイタイ和牛ステーキと飲み物を麓からドローンで配送するという実証を行いました。
いま流行のワーケーションでもそうですが、地元ならではの食を楽しみたい、けれどもお店を探して、現地まで移動するのは、時間もパワーもかかりすぎる、そんな悩みをよく聞きます。「もっと楽に、地元の味を楽しみたい」というニーズは、非常に高いようです。
逆にいうと、地元の食材や料理がウェブで一覧化されていて、オンライン注文すれば、ドローンがデリバリーしてくれる、そんな手軽で新しいサービスがあれば、特別感のある演出で滞在の満足度を向上し、関係人口創出にもつながるような、新たな観光商品になるのではないかと考えています。
もう1つは、北海道ならではのB2Bの取り組みです。具体的には、乳房炎を起こした牛の検体(乳汁)をドローンで配送するという実証実験を、全国で初めて実施しました。試験管に入れた乳汁48本を、エアロネクストの4D GRAVITY®︎搭載の機体に載せて約6km飛行したのち、セイノーHDのトラックで配送しました。
畜産業における検査では、乳汁に限らず血液や受精卵などを、安全かつより迅速に配送するというニーズが多く、本実証においてドローン配送時の振動が検査品質に影響しないと証明できたことは、畜産業界におけるB2B領域の新たなユースケース開発として、大きな第一歩だと捉えています。
<動画(https://www.youtube.com/watch?v=T8agtCiAP4c0)
牛の検体リレー配送実証実験
そのためには、B2CでもB2Bでも「デリバリー市場」そのものを、もっと大きくしていく必要があります。何がなんでもドローンで運んでもらおうとするのではなく、まずはデリバリー市場自体が大きくなるからこそ、ドローン配送の市場も成長できるのです。上士幌町では、買い物弱者対策としてだけではなく、生活やビジネスにおける利便性の潜在ニーズを掘り起こすことで、デリバリー市場の拡大に挑戦したいと思います。
SkyHub®︎とは「時間在庫取引ビジネス」である
では、どのように、デリバリー市場の拡大を図るのか。その視点について少しだけお話しましょう。それは、「時間在庫取引ビジネス」という新たな概念です。
たとえば、牛の検体を送ってみて確信したのは、時間(鮮度などの即時性)が求められるものには、効率的な輸送ニーズがあるということです。現状の配送システムにおいては、荷物が発生してから配送を手配しますが、「時間在庫取引ビジネス」はその真逆。
予め、配送のための時間と手段を確保しておけるシステムがあれば、送りたいとき、欲しいときに荷物の授受ができ、待ち時間という無駄とストレスから解放されるばかりか、荷主にとっては無在庫化という究極の効率化につながるのです。我々は、「人間にとって一番大事なものが時間だとみんなが気づいたときに、デリバリー市場が、その次にドローン配送が、拡大していく」とイメージしています。
この話は、また別の機会に詳しくお伝えしたいと思いますが、いずれにせよ牛の検体のような、品質の安全性を保ちつつ配送スピードを上げたいというニーズは、北海道には点在していると見ています。
そして、このニーズに応えうるのは、4D GRAVITY®︎という安定性・効率性・機動性といった産業用ドローンの基本性能を向上させる、独自の機体構造設計技術を持つエアロネクストだからこそだと自負しています。4D GRAVITY®︎は、離陸、飛行中、着陸というドローン配送の一連の工程において、たとえ機体が強風に吹かれたとしても、常に重心位置を一定に保つことで、荷物を水平のまま揺らさずに運べるという技術で、品質管理には不可欠だからです。
今後の展開における「2つの方針」
最後に、上士幌町におけるSkyHub®︎の今後の展開についてお伝えします。2つの方針があります。1つは、町の「二重構造」を念頭においた全国展開を見据えた取り組みと、もう1つは北海道の畜産業界におけるスマート物流の導入です。
上士幌町は、「二重構造」の町です。町の中心部は市街地で、ここには町の人口の約80%以上が住んでいます。半径約2kmの範囲に、人もお店も密集しているため、配送はドローンよりも車のほうが適しています。
まず市街地では、セイノーHD傘下のココネットによる買い物代行や配送代行のサービスを加速することで、デリバリー市場の拡大を図ります。現在は、町内にドローンデポ®︎を設置して、陸送を始めつつ、町の店舗のDXを進めています。
そして市街地から数km〜数十km離れた周辺部は、農村地域です。ここには町の人口の約20%弱が住んでいますが、広大な面積に人が点在しているために、移動や輸送の効率化が求められているエリアです。ここでは、北海道ならではの「個人宅に広い庭や畑がある」ことを利用して、ドローンの個人宅配送を進めていく予定です。2022年春頃には、ドローンの運航をリモートで監視して個人宅に置き配する、完全無人サービスの開始を目指して、現在は技術的な調整を進めているところです。
「二重構造」を持つ都市や町は、日本全国に大小さまざまな規模で点在しています。二重構造における移動や物流の課題を解決することで、日本らしい四季を感じられる過疎地域での暮らしが便利になり、若い世代の移住を加速する一助になるのではないかと考えています。
そして、北海道は畜産の盛んなところですが、畜産業界も少子高齢化による担い手不足が深刻化しています。面積が広大で、かつ寒冷という地域特性上、配送の不確実性に困っている事業者も少なくないと聞きます。このように配送課題の多い畜産業界全般において、ドローンを含む効率的かつ安全な配送手法を、広く提供していくことで、業界DXに寄与できれば本望です。
これからも、北海道におけるSkyHub®︎のショーケースとして、上士幌町の取り組みを皆さんにお伝えしていけるように頑張っていきたいと思いますので、どうぞ楽しみにしていてくださいね。