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新制度「レベル3.5」とは? ドローン配送事業と新スマート物流のゆくえ

エアロネクストと100%子会社のNEXT DELIVERYは、2023年12月11日に北海道上士幌町で、日本初の「レベル3.5」飛行によるドローン配送を実施しました。今回は、実施内容と導入効果、上士幌町における新スマート物流のあゆみ、新制度創設の舞台裏や、今後の展開についてご紹介します。

「レベル3.5」飛行によるドローン配送事業を開始

上士幌町は、十勝帯広空港から車で約1時間20分のところにある、人口約5,000人の町です。エアロネクストはセイノーHDと共同で、2021年10月に新スマート物流「SkyHub®︎」の取り組みを始めました。

2022年1月のブログでお伝えした通り、「トラックによる陸送と、ドローンによる空送を組み合わせて、それぞれの利便性を考慮して用途を当てはめ、物流の最適化を図る」というコンセプトを、当初から上士幌町と深く共有したうえでのスタートでした。

山梨県小菅村につぐ、2つめの拠点展開。まだまだ手探り状態でしたが、市街地と周辺部という「二重構造」の自治体で、新スマート物流「SkyHub®︎」をうまく駆動させて、「北海道にある同じような過疎地域に、新しい物流モデルを示したい」と考えていました。

2023年12月11日 日本初「レベル3.5」飛行によるドローン配送のオンライン中継の様子

しかし、詳しくは後述しますが、規制の厳しさが立ちはだかり、ドローン配送の事業化はなかなか進まず…。この状況を打破したのが、2023年12月8日に承認された「レベル3.5」飛行です。

2023年12月11日、エアロネクストと子会社NEXT DRLIVERYは、日本初の「レベル3.5」飛行によるドローン配送を実施しました。同日より、上士幌町のみならず、日本全国の新スマート物流SkyHub®社会実装地域にてドローン配送事業を本格的に加速してまいります。

12月11日の初の上士幌町における「レベル3.5」飛行では、まず1つは、市街地の端にある「かみしほろシェアオフィス」と、周辺部にあるハンバーグレストラン「トバチ」をつなぐ、往復17kmのルートです。かみしほろシェアオフィスを離陸したドローンが「トバチ」でハンバーグ弁当を集荷し戻り、かみしほろシェアオフィスで働く方にお届けするという、ドローンによるオンデマンドフードデリバリーサービスの提供が始まりました。

もう1つは、かみしほろシェアオフィスと、周辺部にある個人宅をつなぐ、往復9.8kmのルートです。従来は翌日配達だった新聞が、無人で当日配達できるようになりました。

新聞を受け取ったところ

今後は、本ルートを幹線として近隣に支線を増やす、ナイタイ高原など新たな幹線の開通や、フードデリバリーや新聞配達以外にも用途を拡大するなど、さまざまな事業展開を見据えています。

また2023年12月現在、山梨県小菅村、茨城県境町など続々と、「レベル3.5」導入によって、ドローン配送の事業化を果たしており、2024年以降も地域拡大予定です。

同日実施したプレス発表会には、国土交通省 航空局 安全部 無人航空機安全課 課長補佐(総括)勝間裕章氏が登壇し、「レベル3.5」制度のご説明後、ドローン配送の様子も一緒にご覧いただきました。ひとつの節目を超えたと感じています。

上士幌町 レベル3.5ドローン配送開始 プレス発表会
国土交通省 航空局 安全部 無人航空機安全課 課長補佐(総括)勝間裕章氏

ドローンの社会実装、「定常運航」に至るまで

ここに至るまでの足掛け2年。「実証だけで終わらない」というのが、私たちの合言葉でした。

SkyHub®︎を共同開発したセイノーHDと当社だけではなく、上士幌町という自治体も含め、ワンチームとしての“私たち”です。

「実証実験で終わらない」とは、どういうことか。それはつまり、ドローンの「定常運航」サービスを提供するということです。社会実装とは、定常運航なのです。

そのために最も必要なのは、「荷物」です。もっというと、住民の方々が「ドローンで運んでほしい」と思う荷物です。

しかし、ドローンの存在自体が認知されていない段階で、住民の方々が「この荷物をドローンで運んでください」と、自ら求めるはずがありません。

そこで、私たちはドローンの存在をこのように定義しました。「既存物流におけるトラック配送の補助手段」である、と。

上士幌町の配送拠点ドローンデポ

ドローンありきで新たな物流考えると、「あれはドローンで運んだほうがいいに違いない」「このエリアはドローンのほうがいいだろう」と、個別のケースから検討が始まるため、「そもそもドローンでなきゃいけない理由とは?」という、根本的な問いがいつまでも残ります。

私たちは、そのような試行ではなく、まずは運ぶべき荷物をたくさん集め、次にドローン配送に適した荷物は何かを見出すという順序で、この2年間取り組んできました。

上士幌町でのSkyHub®︎のあゆみは、まさに「荷物集め」の連続です。最初は、市街地中心部にあるAコープ 上士幌ルピナさんの荷物をNEXT DELIVERYにお任せいただきました。

お買い物に来るお年寄りのお客さまは、免許を返納した方も少なくありません。買った荷物を置いて帰り、ルピナさんがその荷物を一軒一軒トラックで周って配送していたのです。私たちはまず、トラックによる配送代行サービスを始めました。

Aコープ 上士幌ルピナさんで配送待ちの荷物

生乳検体の回収と帯広の検査センターへの輸送も、毎日定常的に行うようになりました。これは酪農家さんが外部に発注したくともできず、自社配送していた“手放したい仕事”のひとつでした。

また、他の事業者さんの荷物を集約し委託で配送する、「共同配送」も開始しています。このように「荷物」を増やすことで、町内の事業者さんへの口コミも広がって、「これは運べる?」と荷物のご相談も多くなっています。

上士幌町でのSkyHub®︎配送実績

「レベル3.5」の導入でドローン配送事業を始めた2つのルートも、先行してトラックでの配送サービスを提供したところです。

翌日配達の新聞に不便を感じていた農村部の個人宅へ、トラックでの当日配達サービスを提供し、その配達手段をドローンに置き換えました。

また、町内の飲食店と協働して、町内フードデリバリーサービス「かみしほろEATS」を提供し、2023年4月から10月の半年間で723件の注文を受注するなど、陸送でサービスを普及したのちに、ハンバーグレストラン「トバチ」からの配送手段をドローンに置き換えました。

これまでなかった「新しいサービス」と、ドローンのような「初めてのテクノロジー」、2つのことを同時にやろうとしても、難しすぎてイメージできないので、利用は広がりません。

まずは陸送で新しいサービスを始め、高効率なところをドローンに置き換えていく、という二段階のアプローチをとることで、利用者側も受け入れやすくなり、ドローン配送事業のシミュレーションもできました。

上士幌町内の荷物の約8割は、市街地に集中しているのですが、周辺に点在する“ポツンと一軒家”への荷物は2割しかないにも関わらず、配送時間の約8割を費やしています。

もし、農村部への配送をドローンで全て引き取ることができれば、トラックの配送効率は1.5〜2.5倍まで向上するというデータが出ています。

こうしたシミュレーションを現実のものにしていく鍵が、「レベル3.5」飛行によるドローン配送の事業化というわけです。

農村部の個人宅へ飛んできたドローン

レベル3.5創設の舞台裏 〜全国新スマート物流推進協議会との連携〜

「レベル3.5」飛行とは何か、改めてご説明しましょう。まずは背景からです。

2022年12月の改正航空法施行によって、レベル4飛行といわれる有人地帯上空のドローン自動飛行が可能になりましたが、レベル4対応機体の開発などが追いついておらず、また人口密度の低い過疎地域においてはレベル4への上位互換によるドローン配送事業化は“非現実的”でした。

一方でレベル3は、地上に補助員を配置した目視内飛行を余儀なくされていたため、「ドローンを飛ばせば飛ばすほど赤字」という状況が続いていました。

そこで「レベル3」という枠組みの中で何かできないか、と検討がなされたのが「レベル3.5」です。レベル3の規制を条件付きで一部撤廃することで、ドローン配送の事業化を促進するという新しい制度です。

具体的には、機上カメラの映像で地上にいる歩行者等の有無を確認することで、レベル3で求められる補助者や看板の配置といった立入管理措置が撤廃されました。

加えて、無人航空機操縦者技能証明の保有と第三者賠償責任保険の加入によって、移動車両や鉄道等の上空を一時停止せず通過することが認められました。

また、レベル3.5の許可承認手続を簡素化することで、目標1日というスピード化を目指すことも発表されました。

これによって、ドローン配送のオペレーション体制が大きく変わったのです。

到着地への補助員やパイロットの配備なし、飛行ルート下の補助員もなし、毎日朝夕行っていた立看板の設置もなくなることで、リモートパイロットが1名で遠隔地からドローンを運用できるようになり、現地運用の負荷とコストの大幅な低減が実現します。

また、一時停止が不要になることで定時運航しやすくなります。リソースの配分、配送サービス品質という点でも、ビジネス上のメリットは大きいです。

プレス発表会当日は、山梨県小菅村にいるリモートパイロットが、ドローンを遠隔運航しました。

小菅村のリモートパイロットが遠隔運航する様子

上士幌町の会場では、リモートパイロットが見ているのと同じ、遠隔運航管理システムの画面や、ドローンの機上カメラ映像を投影して、運航管理責任者の青木がフライトプランや飛行の様子を説明しました。

左が運航管理システム画面と機上カメラ映像、右がリモートパイロットと同じく運航管理システム画面
飛行ルート説明の様子

遠隔運航が可能なれば、次は1人のパイロットによる複数機体の運航管理を目指すなど、さらなる効率化のフェーズに入れます。「レベル3.5」の意義は、非常に大きいのです。

実は、この新制度創設において、上士幌町の竹中町長が会長をつとめる「全国新スマート物流推進協議会」が重要な役割を果たしました。

2023年4月、河野太郎デジタル大臣が視察で北海道を訪問した際に竹中町長が働きかけ、5月には全国新スマート物流推進協議会として、正式に表敬訪問しました。当社代表取締役CEOの田路も、協議会理事として同行いたしました。

また6月25日、河野大臣が新潟県阿賀町のドローン医薬品配送の実証実験を視察した際には、田路が具体的に意見交換させていただき、7月7日の「第2回新スマート物流シンポジウム」では河野大臣が登壇し、再度の規制緩和が必要であるとご発言いただきました。

その後、デジタル行政改革会議での活発な議論と、岸田総理の「年内にドローン配送の事業化実現」というご発言を受けて、「レベル3.5」新設に漕ぎ着けたのです。

2022年12月の改正航空法でスタートした「無人航空機操縦者技能証明」保有者は、事故0件というエビデンスにもとづき、それでも(車もそうですが)事故は必ず起きうるものなので保険は必須にしよう、と地に足のついた議論をしていただきました。

「レベル3.5」は、全国新スマート物流推進協議会という、過疎地域の物流課題をなんとかしたいという想いで集まった自治体の皆さんの総意により、実現したものといえるでしょう。

ドローンはツールではなく「インフラ」である

上士幌町をはじめとする全国の自治体さんとここまで深く協働できたのは、「新しいインフラを作りましょう」と、お伝えし続けたからだと考えています。

物を届けるということを通じて、住民の皆さんとのタッチポイントが増える。気心が知れて、気軽にコミュニケーションするなかで、本当に困っている課題を話してもらえる。

だからこそ、住民の方々が住み続けたいと思うためには何が必要なのか、自治体の方々ともたくさん話すことができました。SkyHub®︎導入の過程自体を、インフラとして活用いただいたのです。

このようなインフラが整えば、将来的には物流課題や買い物課題の解決だけでなく、防災はどうしよう、見守りもできないか、とさまざまなアプリケーションを載せることができると考えています。

エアロネクストグループは、技術開発とサービス開発という両面に強みを持つ企業です。今後もパートナー企業と協力して、新たな機体開発や運航管理システムの機能向上に努め、新たな物流インフラの構築を推進してまいります。

最後に、ドローン配送によりトラックの配送効率は1.5〜2.5倍まで向上する、と前述しました。

これが意味するところは、ドローンを上手く活用することで、人員やトラックを増やすことなく、環境にも配慮しながら、より多くの荷物を扱えるようになる、つまり売上拡大を図れるということです。

また、共同配送を地域物流のスタンダードにすることで、域内の荷物は集約され、物量が増えることは確実です。SkyHub®︎のドローンデポが、その拠点として機能します。

2024年はいよいよ、新スマート物流「SkyHub®︎」を、地域の運送事業者さんに担っていただく時代の幕開けです。

我こそは地域物流の課題解決に取り組みたいという自治体さんや運送事業者さんは、ぜひエアロネクストグループまでお気軽にお問合せいただけると幸いです。